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    浴漕は中で二つに仕切られていた。それは一方が村の人の共同湯に、一方がこの温泉の旅館の客がはいりに来る客湯になっていたためで、村の人達の湯が広く何十人もはいれるのに反して、客湯はごく狭くそのかわり白いタイルが張ってあったりした。村の人達の湯にはまた溪ぎわへ出る拱門型に刳くった出口がその厚い壁の横側にあいていて、湯に漬って眺めていると、そのアーチ型の空間を眼の高さにたかまって白い瀬のたぎりが見え、溪ぎわから差し出ている楓かえでの枝が見え、ときには弾丸のように擦過して行く川烏かわうの姿が見えた。

    「おーい、火事はどこい行つたあ」こんな風に、口々に喚いていた。

    「もう帰つたんかね」

    練吉はさつきから一人で喋つていた。

    と、相沢は口ごもつた。

    「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」

    市造は医者だと知つてすぐに起きなほつた。そして、房一が折鞄の中からまだ真新しい聴診器をとり出すのをたゞ無意味に眺めていた。誰に似たのか、市造は恐しく輪郭の整つた顔立ちだつた。あまりきつちりしているのでどこか寸がつまつて見え、硬い大人の面をかぶつた子供といふちぐはぐな感じにも見えた。たゞ、眼だけは紛れもない父親ゆづりの黒味のひろがつたあれだつた。

    「連れっ子をして行ったです。その子供がまたチブスになって、……」

    「いつたい、今日は何ごとかの」

    「梨地から水神淵へ降りる路ができたからね、そこへ出れば、帰りはずつと楽だ」

    「ねえ、高間さん。まあ、こつちへお寄んなさい」

    房一は患者の前にもどつて来た。

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