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一わたり済むと、練吉は最後にもう一度注意深く病人の顔をぢつと眺め、
「どういふことでせうね、まあ!」
と手早く切り上げて、堂本の家を出た。
「ハッパさね」
だが、さう云へば、一歩いちぶ非の打ちやうのない正文に練吉のやうな息子ができたこともふしぎにちがひない。事実、当人の練吉さへ、自嘲めいて時々さう口にするのであつた。
と、房一はぐいと身体を起した。それがあまり突然だつたので、傍にいた徳次は慌てて立ち上つた。
今、房一の顔に現れているのはさういふ怒気だつた。ただ、それは盛子に向けられているのでなしに、房一の内部に立ちはだかり、自ら押へつけしている、それから来る圧迫感だつた。――
「失礼ですが、もしか、あなたは高間さんではありませんか」
「はア」
「どうしたんですの?何かあつたんですか」
今日見るその顔は、色こそ黒かつたが、地蔵眉の、眼もそれに釣り合つて細い糸を引いたやうにやさしかつた。だが、その声には何かきつぱりした、率直さが感じられた。
「うん、うん。あ、さうだ、顔を一寸洗はなくちや」
道平は顎髯を剃り落してしまつていた。